方谷駅は、岡山県高梁市中井町西方に位置するJR西日本伯備線の駅で、駅番号はJR-V15です。この駅の名前は、幕末の備中松山藩士であり、漢学者としても著名な山田方谷に由来しています。駅舎は開設時からのもので、国の登録有形文化財としてその価値が認められています。
駅名が決定する過程では、当初「中井駅」として計画されていましたが、地元の偉人である山田方谷の名を駅名に冠したいという住民の要望が強く、最終的に「方谷駅」と名付けられました。これには、「方谷」を地名と見なすことで鉄道省との交渉を成功させた背景があります。
方谷駅は1928年(昭和3年)10月25日に鉄道省伯備線の一部として開設されました。この駅は、備中川面駅と足立駅間の延伸に伴い開業し、当時から地元住民に親しまれてきました。貨物の取り扱いは1971年(昭和46年)に廃止され、1984年(昭和59年)には無人駅となりました。現在では、ICカード「ICOCA」が利用可能となり、現代の利便性も兼ね備えています。
1984年に無人駅となった方谷駅ですが、新見駅管理下でありながら、地元の生活に欠かせない交通拠点としての役割を果たしています。以前は簡易委託駅として出札業務も行われていましたが、現在では自動改札機や自動券売機が設置されていないため、乗車時にはICOCAの利用が必要です。
方谷駅は、島式ホーム1面2線を有する地上駅で、列車の交換が可能な構造となっています。駅舎は傾斜面上にあり、ホームは駅舎より高い位置にあるため、地下道を経由して階段を登る形でホームへアクセスします。ホーム上には待合スペースが設けられており、乗客はここで列車を待つことができます。
駅は、川と崖に挟まれた場所に位置し、木造の駅舎がその風情を保ちつつ利用されています。駅舎内部にはかつての国鉄タイプの駅名標も残されており、訪れる人々に昔ながらの鉄道の雰囲気を感じさせます。
方谷駅の利用状況は、近年減少傾向にあります。1999年には1日平均72人が利用していましたが、2021年には10人まで減少しました。この変化は、地域の人口減少や交通手段の多様化が影響していると考えられます。
方谷駅は中井地区の中心集落から離れた場所に位置しており、周辺には数軒の商店と民家が点在しています。高梁川が近くを流れ、自然豊かな環境が広がっています。また、駅から約3kmほどの場所には猪風来美術館があり、地域の文化にも触れることができます。
方谷駅周辺には、山田方谷に関連する歴史的なスポットがいくつか存在します。駅のプラットホームから見える山側には「山田方谷先生住宅址」の碑が立ち、彼の旧居があった場所とされています。また、駅から少し離れた国道180号沿いには、越後長岡藩士・河井継之助が方谷を後にする際に振り返り、三度土下座をしたという「見返りの榎」が残されています。
2014年には、方谷駅が高梁市が支援したテレビアニメ『愛・天地無用!』の舞台の一つとして採用されました。これにより、サブカルチャーにおける聖地巡礼のスポットとしても注目を集めるようになり、観光客が訪れるようになっています。
方谷駅は、歴史と文化が交錯する場所として、地域住民のみならず観光客にも愛される存在です。駅舎や周辺の風景には、昔ながらの日本の風情が残されており、訪れる人々に穏やかな時間を提供します。減少する利用者数の中でも、方谷駅はこれからも地域の重要な交通拠点であり続けるでしょう。