順正寮跡は、岡山県高梁市頼久寺町に位置する吉備国際大学高梁キャンパス内にある擬洋風建築物です。1895年に竣工し、当初は校舎や女子寮として使用され、1959年には岡山県指定史跡に指定されました。その後、2016年からは学校法人順正学園によって順正記念館という歴史資料館として運営されています。
順正女学校は、岡山県で最初の女学校として、熱心なキリスト教徒であった福西志計子(しげこ)が1881年(明治14年)に設立した裁縫所から発展しました。この学校は、共鳴者であった木村静子の協力を得て、向町の自宅に開設され、その後「順正女学校」として正式に発展しました。1885年には文学科も設置され、県内外から女学生が集まる教育機関となりました。
順正寮は、1895年(明治28年)11月に私立順正女学校の校舎として建設されました。建物は木造瓦葺の二階建てで、正面に車寄せを持ち、2階部分にはベランダが設けられるなど、和洋折衷の建築様式が特徴です。この校舎は、翌1896年(明治29年)3月に移転式が行われ、新しい教育の場として活用されましたが、寄宿生の増加に伴い女子寮として転用されました。
順正女学校はその後、1921年(大正10年)に岡山県に移管され、岡山県順正高等女学校となりました。さらに、1949年(昭和24年)には統合されて岡山県立高梁高等学校となり、建物はその分校の校舎として利用されました。また、1953年(昭和28年)から1970年(昭和45年)には高梁町立図書館、高梁市図書館としても使用されました。
順正寮跡は、2014年(平成26年)から保存修理工事が始まり、岡山県と高梁市からの補助金を受けて、総工費1億3000万円をかけて修復されました。梁や柱、瓦、手すりなどは可能な限り元の材料を再利用し、床板や壁板などは新調されました。2017年(平成29年)には竣工式が行われ、順正記念館として生まれ変わりました。
順正記念館は、1階が講義室やイベントスペースとして、2階が歴史資料館として利用されています。展示内容は、順正学園の創立者である加計勉や順正女学校の設立者である福西志計子、また郷土の偉人である山田方谷や石井十次などを紹介するものです。これにより、地域の歴史や文化を伝える貴重な施設となっています。
順正寮跡の建築は、正面玄関が和風でありながら、2階部分に洋風のベランダが設けられるなど、和洋折衷のデザインが特徴的です。この建物は、当時のキリスト教信徒であった福西志計子が、教育の理想を貫くために和風の外観を選んだとされています。しかし、随所に洋風設計の要素が見られ、ガラリ窓や菱組天井、上げ下げ窓などが取り入れられています。
この擬洋風建築は、岡山県内でも珍しいものであり、教育と文化の発展に寄与してきた歴史的価値を持っています。保存修理工事を通じて、その価値を次世代に伝えるべく努力が続けられており、今後も地域の歴史を学ぶ場として重要な役割を果たしていくことでしょう。