藤戸寺は、岡山県倉敷市藤戸町藤戸に位置する高野山真言宗の寺院で、山号は補陀楽山です。本尊は千手観音で、「藤戸のお大師様」や「源平合戦供養の寺」として広く知られています。
藤戸寺の創建は、寺伝によれば、慶雲2年(705年)に千手観音像が海中から浮かび上がり、それを安置したことに始まるとされています。約30年後、諸国を巡っていた行基がこの千手観音像を本尊として天平年間(729年 – 748年)に寺院を創建しました。
寿永3年(1184年)12月に行われた源平藤戸合戦で、源氏方の武将・佐々木盛綱はこの地域を拝領し、戦乱で荒廃した藤戸寺を修復しました。盛綱は、戦功を挙げた際に道案内をした若い漁師を口封じのために殺害したと伝えられ、その霊と戦死者を弔うために大法要を営んだとされています。この出来事は、後に能の演目『藤戸』として語り継がれることとなりました。
藤戸寺の境内には、鎌倉時代中期(13世紀中ごろ)に造立された石造五重塔があります。この五重塔は岡山県指定重要文化財であり、その高さは355センチメートルに達し、花崗岩で作られています。塔の初重東面の輪郭下部には、寛元元年(1243年)十月十八日の銘が刻まれており、昭和33年(1958年)4月10日に指定を受けました。
藤戸寺は「平家物語」で有名な沙羅双樹の花が咲くことでも知られています。初夏の頃には、境内にこの美しい花が咲き誇り、多くの参拝者が訪れます。
藤戸寺は、源平合戦にゆかりの深い寺としても有名です。佐々木盛綱が藤戸寺で大法要を営み、戦死者や漁師の霊を弔ったという伝説が残されています。この伝説は、後に能の演目『藤戸』や義太夫などで題材となり、多くの人々に感動を与え続けています。
藤戸寺では、毎月21日に「藤戸のお大師様」の縁日が行われています。この日には、多くの参拝者が訪れ、境内は露店が立ち並び賑わいを見せます。謡曲『藤戸』にゆかりのある寺として、謡曲や歌舞伎を演じる人々、俳句を詠む人々が集まり、歴史と文化が息づく場所となっています。
藤戸寺は、昭和44年(1969年)に東京国立劇場で公演された義太夫『藤戸の浦』で再び注目を集めました。この公演は、原作が有吉佐和子で、戦争と平和、母と子の愛情をテーマに描かれています。また、平成14年(2002年)には、テレビドラマ『水戸黄門』第30部17話で藤戸寺が舞台となり、その歴史と文化が広く知られるようになりました。
藤戸寺は、歴史と文化が深く交差する場所として、多くの人々に親しまれています。源平合戦の歴史を感じながら、鎌倉時代の五重塔や沙羅双樹の花を楽しむことができるこの寺院は、訪れる人々にとって特別な場所です。毎月の縁日には、地域の人々や観光客で賑わいを見せ、伝統と現代が調和した魅力的な空間が広がっています。
藤戸寺は、歴史的な価値と美しい自然に恵まれた場所であり、源平合戦や佐々木盛綱の伝説に触れることができる貴重な寺院です。藤戸寺を訪れることで、日本の歴史と文化を深く感じることができ、心豊かな時間を過ごすことができます。今後も、多くの人々に愛され続ける藤戸寺であり続けることでしょう。